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宇佐見さんはヒロさんの幼なじみで、ヒロさんが昔好きだった人だ。
昔好きだった、と俺自身はっきり言い切れるようになったのはわりと最近のことで、ここまで辿り着くのにはたくさん葛藤があった。
そもそも俺がヒロさんを好きになったきっかけがヒロさんの涙なのだ。
ヒロさんの涙ほど綺麗なものを俺は知らない。
ヒロさんが誰かを想って泣いている姿はこの世の誰より美しい人だと思う。
その誰かが自分でなくとも構わない。
ヒロさんの綺麗な涙を止めてあげたい。
泣いている理由を知りたい。

今まで知らなかった感情が次々にあふれて、そして俺は自分が恋に落ちたことを知った。




奇跡みたいだけど、今ヒロさんは俺の側にいてくれて、笑ったり怒ったり忙しい。
あと、本当に仕事が忙しくてすれ違ったりすることもある。
それでも概ねヒロさんとの生活は幸せなことばっかりで、ヒロさんの寝顔を見ながら眠りにつくのが至福の時間だ。
ヒロさんを悲しくて泣かせるようなことはもうないと思う。

そんなことを確信できたのも、悔しいけれどやっぱり宇佐見さんとヒロさんとの間にちょっとしたことがあったからだった。






「ああ、君は確か弘樹の……」
「……こんにちは、ヒロさんがいつもお世話になってます」
ある日、偶然街で宇佐見さんに会った。
まるで俺がヒロさんの身内のような挨拶をするのは俺の見栄だ。
その日は俺は病院から一旦家に帰る途中で、日中なのにかなりよれよれな格好をしていた。
高級そうなスーツを着こなして真っ赤なスポーツカーを運転している宇佐見さんとは対照的だ。
ヒロさんと出会う前は自分の格好を気にしたことなんてあまりなかったけど、なんだか最近は気になってしまう。
そんな俺の心中など知らぬであろう宇佐見さんは何気ない風に話し掛けてきた。
「弘樹に渡してほしいものがあるんだが、頼まれてくれるかな」
「……ええ、構いませんけど……」
時々、この人は俺のことをどう思っているのかな、と不思議に思ってしまう。
ヒロさんと出会った当初から一方的に張り合ってきたつもりだったけど、それに対して宇佐見さんからはいつもリアクションらしいリアクションはない。
自分がヒロさんにものすごく執着しているせいで不思議に見えるのかもしれないけど、宇佐見さんはこっちが拍子抜けしてしまうくらいクールに振る舞うのだった。
(もしかしてヒロさんに興味ないのかな)
そんなことを考え、自分で否定する。
ヒロさんみたいに魅力的な人に興味を持たない人はいないと思うし、なんだかんだでこの二人はよく会っているようなのだ。
そう思うと、俺のことだけでなくヒロさんのこともどう思っているのかよくわからない。
昔ヒロさんが宇佐見さんを好きだったことを考えると複雑な気分だ。


ぼんやりとそんなことを考えていると、コンコン、と助手席の窓を叩かれた。
「どうぞ」
「えっ?」
戸惑う俺に、宇佐見さんは助手席を指差して乗るように促す。
「ウチまで来てもらおうかと思ったんだが、時間がないならまたの機会でも……」
「あっ、いえ。大丈夫です」
時計を確認してヒロさんがまだ帰ってくる時間ではないことを確かめると、慌てて俺は車に乗り込んだ。
別に俺と宇佐見さんが仲良くなる義理はないけれど、一応、なんとなく、宇佐見さんのことを知っておきたいという気分になり、誘いに乗ってしまった。
(ヒロさんのことも色々教えてもらえるかもしれないし)
このことがヒロさんにバレたら怒られるかもしれないが、今回は興味が勝ってしまった。

相変わらず頭の中はヒロさんのことでいっぱいな俺を隣に乗せ、宇佐見さんはアクセルを踏み込んだ。

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