本文サンプル ******************************** 今年のクリスマスは散々だった。 もちろん言わせてもらうが、女子供のようにこの行事をわくわくして眠れないほど楽しみにしていたとかそういうわけではない。 クリスマスは絶対野分と過ごさなきゃイヤなの!とか、二人っきりで家を飾り付けてパーティーがしたかった!とか そんなこっぱずかしいこと、死んでも口にしないだろう。 あ、いや、そもそもそのようなことを考えてなどいない。 野分と付き合って七年、それなりにささやかなクリスマスを過ごしてきたような気がする。 年末の近づいた街を二人で歩けば否応なく耳に飛び込んでくるクリスマスソングに広告の声に。 どちらともなく、 「……クリスマスだな」 「……クリスマスですね」 みたいな間抜けな会話になるのだ。 イベント事に関心が薄くても、どうしても話題は季節の真ん中を彩るそれに吸い寄せられてしまう。 その単語が話題に上ると、二十四日はいっしょに飯でも、という流れになり、なんだかんだで二人で過ごすことになっていた。 恋人同士の贈り物と呼ぶにはやや首を傾げてしまうようなプレゼントを渡し合い、 クリスマスのディナーにしては栄養バランスのとれ過ぎな野分の手料理にケーキを添えた年もあった。 今の俺からすれば野分と過ごす以外に何があるんだと言いたいが、 二十五日の朝、野分の腕枕でうつらうつらしながら結局今年もこいつといっしょだったなあというようなことを考えていた。 まったく呑気なものだ。 ******************************** |