3、吐露〜柳瀬優〜

 

 

そう、俺の好きな奴がこの漫画大好きで。
まあ俺も好きなんだけど。
昔っから二人でよく漫画持ち合ってあれが面白いだとかこれがすごいだとか話してて。
で、二人とも一番好きなのがこれ、ザ☆漢だったんだ。

あんたがこれ渡してきたときスゲーびっくりしたよ。
確かに名作漫画なんだけど、結構コアなファンが多いっつーか。
読むとハマるんだけど、万人ウケってタイプじゃないかなって思ってたから。
あんた全然漫画読むような人に見えなかったし。
読む?
……だよね。そうだと思った。
じゃあ俺が漫画が好きなんて答えたから焦ったんじゃない?
俺も答えてからもうちょっと違うこと言えばよかったかな、とは思ったんだ。
びっくりしたけど、嬉しかったから。
一応それだけは伝えておこうと思って。

 

何の話してたんだっけ。
俺の好きな奴?

ああ、もうフラれてはいるんだ。

中学の頃からの友達でさ、今の今までずーっといっしょだった。
今もだよ?すごくね?
さっきも言ったように俺もそいつも漫画が好きで、それが今でも続いてるんだ。
あいつが漫画家で、俺がアシスタント。
作家名教えてくれっていうのは勘弁な。
知りたがるタイプには思えないけどね。
それに言ったところで、どうせあんた知らないと思うし。
もしあんたがあいつの漫画読んでたらちょっと笑っちゃうかも。
うん、面白いよ。
もしこの話を誰にも言わなくて、それであいつの漫画に興味があるっていうなら、後からこっそり教えてやる。

 

俺とあいつは趣味とか好みがそっくりで、俺はずっとそれを運命だと思ってた。
あいつもよく言ってたんだぜ?
『こんなに俺のこと理解してくれるの優くらいだ』って。
俺もその通りだと思ってたし、だからあいつに一番相応しいのも自分だと思ってた。

 

好きな奴の隣には、大嫌いな男がいつもそばにいた。

俺とあいつはずっといっしょだったけど、その男はもっとずっといっしょ。
あいつはいつもその男にベッタリで、頼りきってたよ。
そんな奴にあいつを取られるなんて、思ってもみなかった。

我ながらなっさけないとは思うけど、さすがにその時は取り乱した。
あいつに言ったよ。
どうして俺じゃダメなんだ、って。
そしたら何て言われたと思う?
よくわかんないけど、あいつじゃなきゃだめみたいなんだ、って。

それじゃあ、どうしようもないよな。
理由がちゃんとあるんだったら、それをひっくり返してやればいいと思ってた。
だけど、よくわからないけど向こうの方がいいって言われたんだ。
いや、比較対象にすらなってないかもしれない。
あいつ自身実際によくわかってないんだろうけど、好きの次元が違うんだろ。
あいつに好かれてる自信はある。
俺は世界で一番あいつのことが好きだ。
でも、向こうの好きは俺の好きとは同等にはならない。

 

 

ごめん、こんな話して。

なんとなく、あんたになら言ってもいいような気がしたんだ。
なんでだろうな。

 

 

もうあとちょっと行ったら俺ん家だから、この辺でいいよ。
また送ってもらっちゃって悪かったね。
でも、傘持ってなかったから助かった。

次?
そうだな、次また会うことがあれば、今度はあんたの話聞かせてもらおうかな。

なんでザ☆漢を選んだのか。
そこ、すっげー興味あるからさ!

 

 

なに?
………うん、知ってる。
報われなくっても、好きになったこと自体は後悔じゃないんだよね。

もしかして、あんたも似たような経験してるとか?
なんちゃって。

………うん、ありがと。

 

 

 

 

 

2011/03/29