「三人なかよし」

 

俺の計画性のなさは主に仕事面において常に俺を苦しめているけれど、こんなプライベートでも困ることになろうとは。
単に俺としてはトリと優と家で飲めたらいいな〜とかそういう軽い気持ちだったのだ。
トリも優もお酒飲むのは好きみたいだし、たまたまいいお酒をいただくことがあったから二人に感謝の気持ちを込めて飲んでもらいたかった、ただそれだけなのに。

「トリ…もうそのへんにしといた方が……」
「なんだ、ベッドに行きたいのか?」
「ちが−−−−−う!!優が!!来るから!!」

優の到着予定時刻10分前、俺はべろべろに酔ったトリにソファーで組み敷かれていた。



「何してんの」
抑揚のない優の声は痛いほど俺の胸を突き刺した。
どうみても襲われている最中のこの構図。
最も優に見せたくない図だ。
正直優が家に来たとき、助けてー!と叫びそうになったけれど、それを言ってしまうと色々と終わる気がして我慢をした。
「あははは……なんかトリが酔っちゃってさ…」
無理な言い訳を口にしながらぐいぐいとトリの体を押し戻す。
「別に俺は構わないけど?」
優はそう言うとグラスを手に取ってどっかと俺の隣に腰かけた。
やっとトリは優の存在に気付いたのか、不満そうな顔をして俺から離れた。
「千秋が言ってたのってこのワイン?」
「そ、そうそう!なんかいいやつっぽいから優に飲んでほしくてさ」
「ありがとう、千秋」
にこっと優が微笑むたびにトリの眉間の皺が深くなる。
いつもなら挑発的な優の態度にハラハラさせられることも多いけど、今日の爆弾は完全にトリだ。

「で、」
優は一口ワインを飲むと、トリの方を向いて言った。
「羽鳥はさっきまで何してたワケ?」
「………お前には関係ない」
「関係なくないよ。友達じゃん?」
にこにこと笑いながら、優はトリの隣へ移動した。
トリは苦々しい顔をしているけれど、腕はしっかりと俺の腰に巻きつけている。
普段は優の前じゃやきもちのような態度を見せないトリだけど、今日は少しだけ違う。
優もそんなトリを面白がっているように見えた。
しかし俺には到底それを面白がれる余裕などなく、硬直しながら缶チューハイを両手で抱えていた。
腰に回されたトリの腕が熱いのにちょっとだけドキドキしながら。


くい、と優がトリの顎を指で持ち上げた。
「言えないようなことしてたの?」
「……お前にはな」
そのまま見詰め合う二人はなんていうかアレだ。
(今この二人が付き合ってるって言われたら信じちゃうかも…)
漫画家的に言えば絵になる構図だが、当事者としてはとても複雑な気持ちだ。
「ほ、ほら、二人とも飲もうぜ?なっ??」
「ちゃんと飲んでるよ」
「……俺は酒はもういい」
一生懸命空気を変えようとしても無駄な抵抗だった。

「別に俺はいいよ、お前が何してても」
優がトリの耳元でそう囁く。

「ただし千秋がいいって言ったんなら、ね」

今度は俺がぎくっとすくみ上がる番だった。
どうしよう。
俺が嫌って言えば、トリは俺が嫌がることをしてるってことになるし、いいって言ってもそれは問題だ。
今俺がOKを出せば、トリはこの場であんなことやこんなことをしてくるわけで。
(無理無理無理無理)
二人っきりのときでもとんでもないのに、優が見てる前なんて絶対にだめだ。

「千秋、だめ?」
こういう時に限ってトリが甘い声でねだってくる。
この声には本当に弱いけど、今はそんな場合じゃない。
「どうするの、千秋?」
おいうちをかけるように優も問いかけてくる。
気付けばワインのボトルもだいぶ減っていて、すっかり優もできあがってるみたいだ。

「千秋が答えないんなら……」
「優!?」
思わせぶりな笑顔に俺がおののいていると、優は笑顔を崩さずに言った。

「俺が羽鳥のこと襲っちゃうよ?」
「…………はあああああ!?」

ちょっと待て、と叫ぶ暇もなく優がトリを押し倒した。
トリはお酒のせいでぼーっとしているのか抵抗しない。
「どうする?」
トリに馬乗りになった優が、俺の方を見て問いかける。
「どうするって……あ、え、ええええ!?」

俺の答えを聞く前に、優の身体がトリに重なった
…………と思ったら。


「寝てる……」

散々人を右往左往させておいて、二人とも寝息をたてて眠っている。

猛烈に腹が立って、二人を放置してシャワーを浴びに行こうと思ったけれど、
(なんかこの状態って)
トリの胴の上に優の頭が乗っているこの状態がなんともモヤモヤしてしまう。

「まったく酔っ払いは……」
寝室から毛布を持ってくると、力いっぱい優とトリの体を引き離してその間に入って毛布をかぶった。
こうして三人で雑魚寝をしていると、学生の頃を思い出す。

「なかよしっていいよなっ」
ヤケになって一人でそう叫ぶと、トリと優の口元が緩んだような気がした。

 

 

END