昔は俺の方がでかかったのに、と文句を言いながら吉野が俺の服を着ている。
もう二十年も前の話だろうと呆れていると、トリも昔はかわいかったのにな〜と口を尖らせた。
確かに俺のベッドで全裸でごろごろしている吉野に服を着ろと言ったのは俺だ。
そんな姿でいられては目に毒だし、貴重な休みを一日中吉野とベッドに沈むというのも魅力的ではあるがさすがに他にやるべきこともある。
そして偶然にも俺の部屋に置いてある服は全て乾いていなかった。
確かにこれも俺のせいだ。
昨日の夜洗濯をしたのをすっかり忘れて吉野と過ごしていたら、干すのを忘れてしまった。
(言い訳をするが風呂から上がったら干そうと思っていたのだが、珍しく吉野といちゃいちゃしていて我慢できなかった)
だから吉野が俺の服を着ようとしているのは当然のことなのだが、そのチョイスはどうなんだと言いたくて仕方がない。
わざわざ襟元の広く開いた服を選ばなくてもいいだろう。
タートルネックとかそういうのを着ろ。
あと下も何か穿け。
シャツの裾が長いからといって、これでいいかと妥協をするな。
吉野にそう言うと、だってパンツもないんだろ、としれっと返された。
「別に俺はトリのぱんつでもいいけど。トリがいいんなら」
「………すまん、少し考えさせてくれ」
恋人に自分の下着を穿かせるのと、朝っぱらから恋人の下着を買いに走るのとどちらがマシだろうと考えているうちに、吉野は朝食の匂いに誘われてそのままの格好でキッチンへ向かった。
「あ、座るとちょっとやばいかも」
椅子に座ろうとした吉野はそう言って、へへ、と笑った。
こちらとしては笑いごとではないのだが、吉野は見るなよーと言ってそのまま腰かける。
無言でスウェットの下穿きを投げつけると、めんどくさいとそのまま床に放り投げられた。
それより先にご飯ご飯、と機嫌よく鼻歌を歌う吉野の向かいに座って大げさにため息をついて見せる。
「見える」
「何がだよ」
「……かがむと胸が見えるし、足を組み替えると太腿と尻が見える」
「!!!!!」
つとめて冷静に吉野に告げると、何に気付いたのか素早く椅子から立ち上がって床のスウェットを拾い、こちらの視線をうかがいつついそいそと穿き始めた。
「だから最初から着ろと言っている」
「だって!!!」
呆れながら吉野の様子を見ていると、顔を真っ赤にしながら反論された。
「だって、トリが俺のことそういう目で見てるって意識したら急に恥ずかしくなったんだよ!」
そういう目も何も、昨夜さんざんやることをやっておいて何を言っているのだ。
自分がどういう目で俺から見られているのかそろそろ学習してもいい頃だと思うのだが。
妙な格好をしていて風邪でもひかれたら困るが、少し惜しかったか、と写真の一枚でも撮っておけばよかったと少しだけ後悔しつつ朝食を再開した。
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