いそいそと俺の手からチケットを受け取りながら、吉野は苦笑いをした。 「俺たちの場合ってさ、取材なのかデートなのかわかんないよな〜」 一応取材以外のデートもしているつもりの俺からすると微妙な発言だったけれど、デートという認識があることだけでもよしとしよう。 そして今日はどちらかといえば取材よりのデートだった。 「プラネタリウムとか小学生の頃に来た以来かも!」 なんだかんだと言いつつはしゃぐ吉野を見ていると、仕事でもデートでもどっちでもいいかという気分になってくる。 今度プラネタリウムでデートをする話が描きたいというわけで、二人でやってきた次第だ。 プラネタリウムくらい一人で行けないこともないと思うのだが、あえて俺に声をかけてくれたということは、吉野の方も少しは俺と行きたいと思ってくれているのだろうということにする。 単に二人で出かけるのが通例になっているだけかもしれないけれど。 この場所を指定したのも吉野の方だ。 このプラネタリウムは俺と吉野が小学生の頃に何度か行ったことのある所だった。 科学館に併設されているプラネタリウムで、夏休み中ということもあって子供連れの親子が多い。 もっと近場にそれなりに大きいプラネタリウムがあったのだが、子供の頃に行ったここへ行きたいという吉野の希望でここへ来た。 内装も昔とあまり変わっておらず、とても懐かしい感じがした。 「トリ覚えてる?」 「ああ、大体俺がお前のお守させられてたからな」 「お守とか言うな!同い年のくせに!」 小学生の頃はさすがに手は繋がなかったものの、うろちょろと好きなところへ行ってしまう吉野について迷子にならないようにするのが俺の役目だった。 「さ、始まるぞ」 懐かしさに色々と見てまわりたそうな吉野を急かして、プラネタリウムへと向かった。
仕事でもあるので、吉野は持参したカメラで入り口や内観、賑わう人々などをデジカメにおさめ、その後座席に着いた。 子供たちの声でうるさかった館内も、照明が落ちていくのに従って徐々に静かになっていく。 「今日は寝るなよ」 「寝ねーよ!」 昔は上映が終わると吉野はすやすやと寝息を立てていたのでそう忠告してやると、大丈夫だと怒られた。
まさに夏休み真っ最中ということで、上映内容は夏の大三角形を取り上げたものだった。 暗くなった天井に、満天の星空が浮かび上がる。 中々都会暮らしではお目にかかれないような星空だ。 有名な一等星や、それにまつわる星座の話を交えて解説は進んでいく。 ちらと吉野の様子を伺うと、真剣な面持ちで天井を見つめていたので、これなら心配ないかと自分も視線を元に戻した。
「トリと、鳥と、鳥」 つんつんと吉野につつかれて振り向くと、吉野は小声で囁き天井を指差した。 (なるほど) ちょうどアルタイルとデネブのところに大きなワシと白鳥が描き出されている。 発想が小学生レベルのような気がするが、楽しそうなので何も言わないことにする。 というか小学生の頃に同じことを言われて笑われたような覚えもある。 (こいつはまったく…) 半分くらいはデートのつもりでここへやってきたのだが、どうも自分たちは子供のころからあまり変わっていないのではないかということを再認識するだけになってしまった。 やれやれと小さくため息をつくと、吉野がまたも囁きかけてきた。 「いつか見に行こうな、本物の星空」 「!!」 驚いて吉野の顔を見ると、何事もなかったかのように顔の向きを元に戻している。 真っ暗なはずなのに心なしか赤くなっているように見えるのは、俺の目がおかしいのだろうか。 座席の肘掛に置かれた手を握ると吉野は一瞬身をすくませたけれど、ゆっくりと握り返してくれた。 END |