「う…ん……」 トリの唇が押し当てられたかと思うと舌先で撫でられるようにされ、気づいた時に自分のそれも絡めとられていた。 しまったと思うのもつかの間、次の瞬間には自分から舌を差し出すはめになっている。 立ったままのキスはたまに腰が抜けて危険なことがあるので、安全のためにトリの背中にぎゅっと腕を回した。 あくまで安全のために予防策であって、別にもっとすごいことをしてほしいとかそういう意味じゃない。 俺の腕の動きに気づいたのか、トリも俺の後頭部を抱えてさらにキスを深くしてくる。 こうなったら苦しいと訴えても止めてはもらえない。 鼻から自分でもやらしいと思うような変な吐息が漏れてしまう。 トリとのキスは慣れてきたはずだと思ったのに、いまだにうまく息が継げない。 たぶん、トリと唇を離したくないと思っているから。 初めてトリからもらったキスは、半分夢の中みたいだった。 うたたねをしていると、自分の唇にトリの唇が重ねられていた。 寝ぼけていたせいもあるかもしれないけど、今思い出しても出てくる感情は「びっくり」だけで、嫌悪感も何もなかった。 花火大会の夜、確かめるためにもう一度キスしてみろと迫ったのも、あの不思議な感覚がぬぐえなかったせいもあると思う。 自分はバカだから、わかりやすくはっきり説明してもらわないとわからないことが多い。 「なんとなく」トリとのキスは平気だった。 そのぼんやりとした感覚を放って置いたまま、トリを手放すことはどうしてもできなかった。 結局二度目のキスでもどうしてトリなら平気なのかという理由はわからなかったけど、俺にとって重要なことがひとつわかった。 それは、 (俺はトリがいなくちゃだめだ) という当たり前だけど、生まれて初めて意識した大切なことだった。 もっととねだるように舌を差し出すと、当然にようにきつく吸われて頭がクラクラしてくる。 こんなこと、トリ以外の相手じゃ絶対にできない。 蕩けそうになる頭でトリはどう思ってるのかな、と考える。 俺と同じことを考えていたらすごく嬉しいと思う。 仕事から家事まで、トリがいなかったら俺はたぶん生きていけないけど、そういう意味だけじゃなくっても、トリがいないと俺はだめだ。 じゃあ、トリはどうなんだろう? 俺がいなくなったところで、トリの日常生活にも仕事にもあんまり差し障りはないと思うんだけど、同じように俺がいなくちゃだめだと思ってくれていたらすごく嬉しい。 そんなことトリの口から直接言われたら恥ずかしくて死にそうになることは間違いないので、今は尋ねるのは保留にしておくけれど!
「トリ」 やっと訪れた口付けの合間に、そっと声をかける。 「俺、トリのキスが好きなんだけど」 しばらくトリはぽかんとしていたけれど、すぐにふわりと微笑まれた。 「じゃあ、一生させて」 その言葉にノーという選択肢などあるはずもなく、すぐに俺たちは確かめあう行為を再開した。 END |