「夏祭りもどき」

 

わがままというのは言ってみるもので(ただし相手がトリの場合に限る)、キッチンに広がる光景に俺は胸を弾ませた。
「トリすげえ!!マジ感動した!!」
「……どうも」
トリのあきれたような声も気にならないくらい、すごい光景だ。

 

ことの始まりは先日の土曜日。
前々からトリと地元の夏祭りに行こうと約束していたのに、俺が締め切りをぶっちぎってしまったので、予定が流れてしまったのだ。
いやもう全部自分が悪いことはわかっているのだけど、
「たこ焼が食べたかったー、焼きそばが食べたかったー、チョコバナナが食べたかったー、フランクフルトー、じゃがバター、たいやきー…」
「うるさい、自業自得だ。というか腹壊す」
でもああいうのはいっぺんに食べられるのはお祭りだけなんだと駄々をこねていると、トリはおもむろに立ち上がった。

「トリ?」
「わかった。そういうもんが一度に食べられればいいんだな?」

それだけつぶやいてトリは出かけてしまった。
これは怒らせてしまったぞという気持ちで悶々と帰りを待っていると、両手いっぱいに食材をつめたスーパーの袋を携えてトリが帰ってきた。

「お前が言ったんだから、責任持って全部食えよ」

そうしてトリは魔法のような手際で縁日のメニューを片っ端から作り上げていった。

 

 


「すまん、綿あめまでは作れなかった」
全然すまなさそうな声でトリが言う。
つまりはこれだけのわがままを言った俺への嫌味だ。
だけどどれだけ嫌味を言われたって、ここまでしてくれるトリのことを好きにならないわけがない。
「お前さー、ちょっと俺に甘すぎじゃね?」
自分のことを棚にあげまくってそう聞くと、ため息をつかれた。
「知ってるよ」
そして俺の口元のソースを指でぬぐって、トリは言った。
「ま、ここまで馬鹿馬鹿しいことすると怒るよりも笑えてくるからな。お前がアホみたいに喜んでくれたら、それでストレス解消になる」

俺的にはそれでいいのかという疑問が残るけれど、とりあえず愛されてるんだなあと思うことにした。
こんなわがままで振り回す俺のことを嫌いになれないとは少し不憫な男だとかわいそうな気もする。

「トリ、あーん」
たこ焼を串にさしてトリの口の前に持っていくと、意外そうな顔をされたが素直に口を開けてくれた。

 

しかしそのたこ焼きが熱々だったことを思い出したときにはもう遅く、顔をしかめたトリに殴られた。

 

 

 


END