引きが強い、と笑いながら吉野は両手に教科書と鞄を抱えて俺の隣へやってきた。
確かに席替えで２回連続で隣同士になるとは、俺も吉野のくじ運に驚かざるを得ない。
「じゃあこれからもよろしく、っと」
吉野が隣の席にいることも嬉しいけれど、それ以上に吉野がそれを喜んでくれていることが嬉しい。
他にも吉野と仲のいい奴らが２、３人周りに集まったようで、吉野と話をしている。

（特別ってなんだろうな）

吉野も俺もそれなりに友人は多いと思っている。
その中には地元が同じで小学校から高校まで一緒だった奴も何人かいる。
だけど、生まれたときからほぼ一緒に過ごしてきた吉野は特別だ。
過ごしてきた時間の長さだけじゃない、俺の吉野に対する感情がこの「特別」を作っている。
じゃあ、吉野は俺のことを特別な存在だと思ってくれているのだろうか？
もしそう思ってくれているのだとしても、幼馴染として過ごしてきた時間の分を引いてしまえば「普通」の友人になってしまうのではないだろうか？
単に付き合いが長いから、吉野は俺のことを信頼して、甘えてくれる。
お互いに対する理解だって、これだけ長い間いっしょにいれば当然なものかもしれない。

俺はこの先、吉野といっしょにいた時間の長さだけに縋りついて自分たちの関係を特別だと思い込みながら過ごしていかなくてはいけないのだろうか。

わいわいと友人たちと話をしている吉野を横目で眺めながら、そんなつまらないことを考えていた。

「うーん……、逆に考えればいいんじゃね？」

高校生の頃にこういうことを考えていた、ということをふと吉野に漏らしたところ、しばらく考えたあと吉野はこう言った。
「逆？」
「そうそう」
ちょっと照れながら、それでも吉野は一生懸命説明してくれた。
「そりゃあ友達は何人もいるけど、トリみたいな奴他にいないと思うし、俺もいっぱい助けられてきたからトリが友達で本当によかったって思ってる」
友達っていうか今はまあアレだけど…と言葉を濁しながら現在のフォローもしてくれた。

「そういう相手が見つかるのってさ、スゲー確率だと思うんだよね。それが生まれた時から隣にいるのってすごくね？っていう意味の逆？みたいな…」

最終的には自分でも言葉が絡まってしまったようで疑問符だらけの語尾になっていたけれど、吉野の言わんとすることは大体理解できた。
要は時間の長さの方を喜べ、ということなのだろう。
俺は一緒に過ごしてきた時間が長いからお互いが特別なのだということに不安を抱いていた。
だけど、吉野は言った。
特別な相手がずっと隣にいることがすごいことなのだと。

吉野はたまに突拍子もないことを言い出すけれど、こういうところは素直に驚かされる。
「吉野、お前すごいな」
「えっ？何何？？」
俺に褒められ慣れていないのか、目を泳がせながら赤くなっている。

確かに出会いがどんな形だろうと、俺は吉野を好きになっていたんじゃないかと思う。
それがたまたま幼馴染として出会っただけなのかもしれない。
１００回吉野と出会ったら、１００通りの理由で吉野を好きになるだろう。

ＥＮＤ