吉野はそこまでたちの悪い酔い方をする奴じゃない。 ほどほどに饒舌になって、ほどほどに笑い上戸になる。 すぐに眠くなる癖は外で飲んだり仕事が控えている時には困るが、家で飲んでいる時は俺がベッドまで連れていけばいいだけの話だ。 だから今日も他愛無い話をしながら吉野と二人でビールを飲んでいた。 限界を越えなければ基本的に自分は酒に強い方だと思っているので、とくに何の心配もしていなかった。 吉野がすぐに寝てしまうだろうことは予想できたから、それだけは残念だったが。 しかし、今日の吉野のテンションは何かあったのかと疑いたくなるくらい恐ろしいものだった。 「はい、じゃあ今から脱ぎまーす!お触りは禁止でーす」 吉野はえへへへとしまりのない笑い声を立てながら、向かい合う形で俺の膝に乗り上げてきた。 俺と吉野との距離はほんの数十センチ。 お互いの酒くさい吐息が胸の辺りで混じりあう。 触れ合った部分からも熱い体温が感じられる。 呆れた俺がとりあえず見守る中、吉野は思わせぶりにTシャツの裾に手をかけた。 「お前さー、散々俺のこと色気ないって言ってたじゃん?じゃあこーゆーことしても平気だよな?」 徐々にあらわになる吉野の白い肌、細い腹回り。 (……勘弁してほしい) 平気なわけあるか!と叫びたいのを我慢してごくりと唾を飲んだ。 冷静に考えれば吉野がこんな風に俺を誘うわけがない。 どうせ俺を困らせたいだけだろう。 つまらないことをしていないで風邪ひかないうちに服を着ろと言われるのが関の山だと考えているのかもしれない。 確かに普段の生活では色気の欠片も見られないが、それでも俺が欲情していることはすっぽり頭から抜け落ちているらしい。 よく見ると日に当たらないせいで白いと思っていた吉野の皮膚はアルコールのためか薄いピンク色が混じり、噛み付いてくれといわんばかりの様相だ。 きっと俺は今獣のような目をしているに違いない。 お触りは禁止と言われた手前、一応堪えている俺を見て反応なしと判断したのか、吉野はさらに調子にのった。 「まあこれくらい平気だよな。風呂場で俺の裸見た時も、お前全然表情変わんなかったし?」 ところどころ吉野の本音が漏れているような気がしたが、とりあえず今は置いておこう。 俺の不穏な視線に気付かないかのように、吉野は仕方ないと言いながら下も脱ごうとする。 膝の上でズボンから懸命に足を引き抜いている姿はなるほど色気とはほど遠い。 吉野の着地点が見えず、頭がズキズキしてきた。 どこで止めてやればいいのだろうか。 それとも止めなくてもいいのか。 パンツ一枚になった吉野が俺の膝にまたがってへらへらと笑っている。 客観的に見ればたいそう間抜けな光景かもしれないが、俺はこの吉野の身体をどんな風に触るとどんな風に官能的な反応を示すかということをいやというほど知っている。 そして俺がそれにどんなに興奮するかも。 少し考えたが我慢の限界だと思ったので、吉野の腕を引いてソファーに押し倒して全裸に剥いた。 酔っているせいで自分のおかれている状況がわからないのか、吉野はむっとして口を尖らせた。 「触るなって言ったのに」 「無理だろ、普通に考えて」 なんだか自分も熱くなってきたので、上着を脱ぎ捨ててそのまま吉野の唇を吸った。 吉野は押し戻そうとしたが、口の中を探ると抵抗はすぐに止む。 吉野が苦しそうな声をあげるまで、俺は唇を離さなかった。 「……色気ないって言ってるくせに」 「でも、いつも抱きたいと思ってる」 「……矛盾してる」 「してないよ」 上気した吉野の身体を抱き締めると、それ以上の文句は返ってこなかった。 「それに訂正させてもらうが、俺はお前に色気がないと言ったわけじゃない」 「う、嘘つくなよ!」 「確かにお前の言動には色っぽさはないがな。照れ隠しにすぐ冗談で逃げるところとかな」 「うっ……」 だけどそういうところも好きだからどうしようもないと告げると、知ってる、と言って吉野は自分から俺にしがみついてきた。 その後、アルコールのせいでいつもより感じると啜り泣く吉野の姿が恐ろしいほどエロかったのは言うまでもないことである。
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